原油価格の暴落で反米産油国が大打撃。地政学上のバランスは激変か?

原油価格の下落が止まらない。背景には米国のシェールガス革命という供給要因があり、長期的に下落傾向が続くとの見方が強い。原油価格の下落は、基本的には世界経済にプラスだが、石油の輸出に依存する産油国にとっては打撃となっている。一部の国では財政破たんを懸念する声も出始めている。

 12月8日のニューヨーク原油先物市場は、1バレル63.05ドルで取引を終えた。終値ベースでは約5年半ぶりの安値である。
 原油の価格下落は、世界経済の失速懸念がきっかけだったが、根本的には米国のシェールガス革命による大幅増産という供給要因がある。米国は近い将来、エネルギー源のすべてを自給できる見通しであり、中東からの原油の輸入が大幅に減ると予想されている。

 産油国は本来、減産で対応するのだが、サウジアラビアが減産に否定的だったことから、OPEC(世界石油輸出国機構)では最終的に減産を見送った。これによって原油の価格下落に歯止めがかからなくなっている。

 原油価格の下落は、基本的には世界経済全体にとってプラス要因だが、資源国は収入の減少につながるためマイナス要因となる。サウジアラビアは圧倒的な埋蔵量と価格競争力を持っているため大きな問題は発生しない可能性が高いが、ロシアやベネズエラなど、経済が脆弱な産油国にとっては大打撃となる可能性が高い。

 ロシアは1日あたり1000万バレル、ベネズエラは260万バレルの石油を生産している。両国は産出した石油の多くを輸出しており、原油価格の下落は、国家財政を直撃する。
 原油価格が100ドルから65ドルに下落すると、ロシアは年間で11.5兆円ほどの損失に、べネズエラは約2.8兆円ほどの損失になる(ロシアの場合には天然ガスの輸出もあるので、さらに影響が大きい)計算だ。ロシアのGDPは約250兆円、ベネズエラのGDPは約27兆円なので、原油価格下落の影響はロシアの場合GDPの約4.6%、ベネズエラの場合には10.4%にも達する。

 両国は経済基盤が非常に脆弱であることから、原油価格下落による輸出の激減は、金融危機や財政危機を引き起こすリスクがある。ロシアはウクライナ問題で経済制裁を受けており、資金の国外流出が加速している。原油価格の下落はこうした状況にさらに拍車をかける可能性が高い。
 両国は反米的なスタンスで知られているが、両国が経済的苦境に陥れば、地政学的なバランスも大きく変化することになるだろう。

 両国に対する債権の額などは、グローバルな金融マーケットから見れば、微々たるものである。だが一部で信用リスクなどが顕在化することになれば、金融市場にはちょっとしたショックとなるかもしれない。経済全体としてはプラス要因の原油安だが、金融市場では少々警戒が必要な水準となってきている。

近々1Lあたり100円を割る日がくるかもしれませんね。